転職を考えたことがある人であれば一度は「転職エージェント」という言葉を聞いたことがあると思います。
これは求人紹介や応募代行、条件交渉など転職活動をサポートしてくれる有料職業紹介サービスです。
現在国内にはリクルート、マイナビ、パソナなど大手各社をはじめ数百社のエージェント企業があり、転職者のうち約1/4がこのサービスを利用して転職していると言われています。
またそのほとんどは求職者が無料で利用できるサービスであり、今や転職を考える上ではなくてはならないプラットフォームとなりつつあります。
しかしながら、初めて転職エージェントを利用する人にとっては未知の部分が多く、活用をためらってしまうこともあると思います。
また間違った利用方法をしてしまうとあなたの転職活動にとって不利益につながってしまう恐れもあります。
そこで、今回は転職エージェントを利用する前に知っておいてほしいとこを、元転職エージェントが裏事情を踏まえて解説していきたいと思います。
1. 転職エージェントのビジネスモデル
まず転職エージェントのビジネスモデルについて解説します。
1-1. 転職エージェントはなぜ無料で利用できるのか
転職を考える求職者は国内の転職エージェントのほとんどを「無料」で利用できますが、それは転職エージェントがクライアント企業の採用をサポートしている見返りとして一定のフィー(報酬)を受け取っているからです。
転職エージェントのホームページを見ると、
- 「あなたの転職を親身にサポート」
- 「転職を考える人の強い味方」
などの文言を見かけますが、すべての求職者を親身にサポートしているわけではありません。
- 「企業に紹介してお金になる(採用してくれる)人を集める」
- あるいは「紹介して採用してもらえるように育てる(サポートする)」
ためのサービスということができます。
ですので、あなたが転職エージェントに登録して親身なサポートを受けている、と感じたならば、少なくとも「転職の見込みあり」と判断されたことになります。
もし「見込みなし」と判断されたならほとんどの場合、エージェントから積極的な連絡が入ることはないでしょう。
1-2. 企業はなぜ転職エージェントを通じて募集するのか
企業が転職エージェントを利用して採用した場合のフィーは、年収の30%程度が一般的です。
(地域差あり)仮に社員1名を年収500万円で採用したとすると、この企業は転職エージェントへ150万円のフィーを支払わなければなりません。
これは下記と比較してもかなり高額な設定となります。
他の一般的な採用方法による費用比較(概算)
転職サイトに広告掲載 | 20万円~30万円程度 / 4週間 |
新聞折込に広告掲載 | 12万円程度 / 1/2ページ |
ハローワークに依頼 | 無料 |
自社HPにて募集 | 無料 |
それでも企業が転職エージェントを利用する理由は主に下記の通りです。
- 無料や低料金媒体では出会えない良い人材を採用したい
- 自社の採用スキルに課題があるため応募者のスクリーニングを代行してほしい
- 競合他社に知られることなくこっそり良い人材を採用したい(ヘッドハンティング含む)
これらの項目にコスト以上の価値を見出すことのできる企業が大企業を中心に中堅、ベンチャーなどを含めて多数あるため転職エージェントサービスが成り立っているというわけです。
つまり、転職エージェントとは、限りなく「企業サイド」に立ったサービスということができます。
2. その時、転職エージェントは何をしている?
「企業サイド」である転職エージェントをうまく活用する方法としては、サービスの全容、ことさら裏事情を理解することが重要です。
では、求職者が転職エージェントサービスに登録してから内定を受け実際に入職するまでの間、裏側ではどのようなことが起きているのでしょうか?
2-1. 登録があったとき
まず転職を考える人(以後、求職者)が最初に転職エージェントとコンタクトを取るのはPCやスマホ画面の中の企業サイトやバナーなどです。
そこには「あなたの転職活動を親身にサポート!」など求職者の目に留まる見出しがあります。
その後、登録やサービスの利用が無料ということもあり、興味を持った人は登録へと進むわけですが、ここで最初の「裏事情」が存在します。
2-1-1. 登録事項を確認
先に述べた通り、転職エージェントの使命は、「企業に紹介してお金になる(採用してくれる)人を集める」、あるいは「紹介して採用してもらえるように育てる(サポートする)」ことです。
登録内容からとても企業に紹介できる経歴ではないと判断された場合は、最悪の場合、登録完了のメールの後「一切連絡がこない」ということもあり得ます。
エージェントとして確認する項目は以下の点です。
- 年齢
- 現在年収
- 転職回数
- 現職で従事する業務内容
特に年齢と転職回数は重要です。
多くの場合は年齢が高くなればなるほど、転職回数が増えれば増えるほど高スキルでなければ転職は難しくなるため、エージェントは一定の足切りラインを設けていることもあります。
※業種・職種・企業規模や求人コンセプトなどにとっては一概に言えません。
逆に高スキルで若く転職経験もない人であれば他のエージェントと取り合いになるリスクがあるため我先にと連絡を取ろうとします。
この場合はメールだけでなく電話やショートメールなどで連絡があります。
転職エージェントに登録したもののなかなか連絡がこない場合、登録先には自分が応募できる求人がない、と考えて他のエージェントを探した方が良いかもしれません。
2-1-2. 登録者との面談
登録が完了し、無事に連絡があれば次に実施されるのは「面談」です。電話または対面、あるいはSkypeなどを利用してweb面談などで実施されます。
この面談は「求職者の要望を詳しく確認してより希望に近い求人を紹介するため」に行われていると思われがちですが、実は「エージェントが求職者のことをより深く理解し、企業へ売り込む材料を探すため」に行われるのです。
2-2. 登録者に求人紹介をするとき
面談後、求人紹介は驚くほどすぐに行われます。
対面で面談が実施される場合はその場で数件の求人を渡されることも少なくありません。
ではエージェントはどのような観点で求職者に紹介する求人をピックアップしているのでしょうか?
2-2-1. 持ち駒とのマッチング
転職エージェントは紹介した求職者が入職して初めて、企業から既定のフィーを頂戴できるシステムで運用していますので、手持ちの求人は「金のなる木」、求職者は「金の実」なのです。
つまり、自社の営業担当が獲得した求人にはなるべく早く求職者をマッチングさせ、お金に変えていかなければなりません。
ですので、まずは今ある求人の中から求職者とマッチングできる可能性の高いものをピックアップし、優先順位(基準は年収順やかかわりの深い順番など)をつけて提示します。
基本的には提示された求人から求職者が自由に選びますが、エージェントは本当に応募してほしい求人をアピールし、巧みに誘導してくることもあります。
2-3. 企業への応募
次に、応募を決めた企業に対する応募作業です。
一度に応募できる数に上限はありませんが、エージェントによっては5社まで、あるいは3社までと指定してくる場合もあります。
ただし、年齢が高くなればなるほど通過率が下がるので、エージェントが進める応募数は年齢に比例して上がっていきます。
逆に提示された求人数は多くても同時に応募を勧められた企業数が少ない場合、マッチングする可能性が高いと思われているのかもしれません。
2-3-1. 書類をもとに推薦
ほとんどの企業は「書類選考」がありますので、応募には「履歴書」「職務経歴書」などの書類が必要です。
エージェントが求職者を企業に推薦する場合、これらの書類に紹介状を添えて持参(または郵送)するのですが、求職者が最初に書いた書類をそのまま送ることにはなりません。
求職者が書類選考を通過しやすいように職務経歴書の添削、作成指導を入念に行い、一日でも早く一件でも多くマッチングを成就させるために尽力します。
普段は企業サイドに立っている転職エージェントですが、この時から内定決定までの間、内定を勝ち取るという共通の目的の元、完全に求職者の強み方となります。
2-3-2. 面接日時の設定
無事に書類選考を通過したら面談日時の設定を行いますが、実はここがエージェントにとって最もといってもいいほど難関であり、腕の見せ所でもあります。
まずは日時の調整で企業と求職者の板挟みになりエージェントは四苦八苦することもざらです。
中には「当日の予定変更」「ドタキャン」「ノーレスポンス」などなかなか面接の実施に至らず、求人がクローズする(充足する)こともあります。
また面接日時が決まってからは求職者に対して企業情報の提供や面接対策を行い、面接を通過する可能性を引き上げるのも、エージェントの重要な業務です。
2-4. 内定後
無事面接もクリアして求職者が転職エージェントを通じて応募した企業から内定を得た場合、まずは企業の担当者から転職エージェントへ通知が来ます。
※不合格の場合も同様です。
そしてここからは「求職者」「転職エージェント」「企業」の3者が入り混じった駆け引きが始まります。
転職エージェントは「応募」段階から求職者サイドに傾いていましたが、ここからは3者フラットな状況となります。
2-4-1. 条件交渉は双方のため
転職エージェントにとって、求職者が応募企業へ内定後の重要な仕事としては「条件交渉」があります。
もちろん、当初から1円単位で給与、想定年収が決まっている場合もありますが、多くはスキル・年齢に応じて幅を持たせるためにレンジで決めているため、条件交渉が必要となります。
とはいえ、いったん企業内で決定した給与金額を動かすことは難しいため、内定後の仕事と書きましたが、実際は応募段階から求職者のアピールを行い、より良い条件で入職できるように根回しや交渉を行います。
給与・年収アップは求職者のみならず、年収に応じてフィーが決まる転職エージェントにとってもメリットのあることなのです。
2-4-2. 入社まで気が抜けない
転職エージェントにとって一番怖いのは「入社前の辞退」です。
せっかく紹介した求職者が良い条件で入職が決まっていても、結果的に入社しなければ1銭にもなりません。
そうならないように、内定後は求職者の現職への退社手続きの進捗も気にしながら、スピーディに入職の手続きを進めることになります。
3. 転職エージェントの利用法のおすすめ
これまで様々な裏事情について説明してきましたが、転職エージェントは、過信せずにうまく活用すると非常に便利なものです。
では、いったいどうすれば転職エージェントをうまく活用できるのでしょうか?
3-1. 転職エージェントの事情を正しく理解しよう
まずは転職エージェントの特性や事情を理解する必要があります。あなたがある行動をとっている時、裏で行われていることを知ることが重要です。
3-1-1. 必ずしも「利害」は一致しない
先にも述べた通り、転職エージェントは「企業サイド」のサービスです。このことから求職者との間の利害は必ずしも一致しないことがわかります。
しかし、応募企業が決まった後は内定に向けて「頼れるパートナー」となってくれます。
求職者(自分)にとっての利益とは何か?をどんな時でも念頭に入れて利用することで、転職エージェントは「うまく活用する」ことができます。
3-1-2. 大切な「エージェント選び」
次に、数ある転職エージェントの中からどの企業をチョイスするかも重要です。
転職エージェントには企業、担当ごとに「得意・不得意」な分野があります。
ミドルシニアが得意なエージェントもありますし、サービス業に特化したエージェントも存在します。
しっかりと事前に情報収集をし、自分に合ったエージェント選びをすることをお勧めします。
3-2. 転職エージェントは自分のペースで利用する
転職エージェントは多くの利益を上げるために、「手持ちの案件」から「早く決めよう」とします。
それが求職者にとって最良の選択かどうか、はあまり考慮されることはありません。
よって、求職者自身が「自分の意志で」「自分のために」「自分のペースで」利用することが大切です。
3-2-1. 何社したらよい?
多くのエージェントサイトに登録する求職者もいますが、情報過多になると混乱してしまい、かえって良い選択ができない場合もあります。
しかし、1社にこだわって利用すると、サービスが偏重して時に感情的になり、冷静に判断することができなくなる場合もあります。
お勧めは自分の得意分野、属性を考慮したうえで、規模間の違う2社~3社をピックアップして利用することです。
3-2-2. 自己主張は重要
転職エージェントは万能ではありません。また、常に求職者にとってベストな選択肢を提示しているわけではありませんので、エージェントに流されることなく、自分の意見ははっきりと主張することが重要です。
これは内定が決まった後でも同様です。情に流されて自分の人生の選択を誤ることのないように気を付けてください。
4. まとめ
転職エージェントの裏事情と効果的な利用方法について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
何度も述べた通り、転職エージェントは利害の関係上企業サイドで動いていますが、その裏事情、意図をくみ取ることで有効に活用することができます。
「書類添削」「面接対策」「企業情報」など豊富に有しており、マッチングのプロフェッショナルであるエージェントをうまく利用して、転職活動を有利に進めてみてはいかがでしょうか?